はじめてのESG経営

中小企業が脱炭素へ踏み出す第一歩:排出量算定とコスト削減につながる実践ヒント

Tags: 脱炭素, 温室効果ガス排出量算定, コスト削減, 環境配慮, 若手・中堅, 中小企業

はじめに:なぜ今、中小企業も脱炭素に取り組むべきなのか

近年、「脱炭素」という言葉を耳にする機会が増えています。地球温暖化対策として、国や大企業だけでなく、中小企業にもその取り組みが求められるようになっています。もしかすると、「うちのような中小企業には関係ない」「何から始めたら良いか分からない」と感じている方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、脱炭素への取り組みは、もはや遠い目標や負担増加だけを意味するものではありません。サプライチェーン全体での環境負荷削減が重視されるようになり、取引先である大企業から排出量削減を求められるケースが増えています。これはビジネス継続のための重要な要素となりつつあります。

さらに、エネルギー利用の見直しや効率化といった脱炭素の取り組みは、長期的な視点で見ればコスト削減や業務効率化にもつながる可能性があります。また、環境に配慮した企業イメージは、顧客や求職者からの評価を高め、競争力強化にも貢献します。

本記事では、中小企業が脱炭素へ向かうための第一歩として、温室効果ガス排出量の「見える化」(算定)の基本的な考え方と、日々の業務の中で実践できる具体的な取り組み、そしてそれがどのようにコスト削減につながるのかを、分かりやすく解説します。若手・中堅社員の視点から、どのように貢献できるかについても触れていきます。

中小企業にとっての脱炭素の重要性

脱炭素が中小企業に求められる背景と、その重要性についてさらに掘り下げます。

  1. サプライチェーンからの要請: 大企業は自社の排出量だけでなく、原材料調達から製品の廃棄・リサイクルに至るまでのサプライチェーン全体の排出量(Scope 3排出量)の削減を目指しています。その結果、取引先である中小企業に対しても、排出量データの提出や削減努力を求める動きが広がっています。これに応えられないと、将来的に取引の機会を失う可能性も考えられます。
  2. 競争力とブランドイメージの向上: 環境問題への意識が高い消費者やビジネス顧客が増えています。脱炭素への積極的な取り組みは、企業の信頼性やブランドイメージを高め、同業他社との差別化につながります。また、環境への配慮は、特に若手層からの企業の魅力度を高め、優秀な人材の確保にも影響を与えます。
  3. コスト削減の機会: エネルギー使用量の削減や効率化は、光熱費や燃料費の削減に直結します。初期投資が必要な場合もありますが、長期的なランニングコストの低減や補助金・税制優遇の活用により、経済的なメリットを享受できる可能性があります。
  4. 新たなビジネス機会の創出: 環境関連の技術やサービス、または環境に配慮した製品開発など、脱炭素社会の実現に向けた動きは新たなビジネス機会を生み出します。既存事業との関連で、環境価値を付加したサービスを展開することも考えられます。

脱炭素の第一歩:「見える化」から始める温室効果ガス排出量の算定

脱炭素への取り組みを始める上で、最初に行うべきは自社の温室効果ガス排出量がどのくらいなのかを把握することです。これは現状を知り、削減目標を設定するための基礎となります。「排出量算定」と聞くと難しそうに感じるかもしれませんが、中小企業が最初から完璧を目指す必要はありません。身近なデータを使って、簡易的に把握することから始められます。

どこから算定を始めるか?(Scope 1, Scope 2, Scope 3の考え方)

温室効果ガス排出量は、大きく以下の3つの区分(Scope:スコープ)に分けられます。

中小企業がまず取り組むべきは、比較的データが集めやすい Scope 1とScope 2 の算定です。特にScope 2の電力使用量は、ほとんどの企業で把握しているデータであり、ここから始めるのが最も現実的です。

簡易的な算定の進め方

  1. 対象期間と範囲を決める: まずは直近の1年間など、算定する期間を決めます。範囲は、自社の事業所全体とするか、特定の拠点や部門に限定するかを決めます。まずはScope 1, 2全体を対象とするのが良いでしょう。
  2. 必要なデータを集める:
    • Scope 2 (電力): 電力会社からの請求書に記載されている使用量データ(kWh)を集めます。ガスや熱の使用量(MJやm³など)も同様に集めます。
    • Scope 1 (燃料): 自社車両のガソリン・軽油使用量(L)、灯油や重油などの燃料使用量(Lやkgなど)を集めます。工場のボイラーや自家用発電機があれば、その燃料使用量も含まれます。
  3. 排出量に換算する: 集めた使用量データに、それぞれのエネルギー源に応じた「排出係数」を乗じることで、CO2換算の排出量を計算できます。排出係数は、環境省などが公表しています。
    • 例:電力使用量(kWh) × 電力の排出係数(kgCO2e/kWh) = 電力使用に伴うCO2排出量(kgCO2e)
  4. ツールを活用する: 環境省の算定・報告・公表制度のウェブサイトには、排出係数リストや算定に役立つ情報が公開されています。また、簡易的な排出量算定を支援する無料ツールやサービスも出てきています。若手・中堅社員が率先して情報収集し、試してみる価値は大きいでしょう。

Scope 3は範囲が広くデータ収集が難しいため、まずはScope 1, 2で自社の直接的な排出量を把握することから始めるのが現実的です。

コスト削減にもつながる具体的な脱炭素アクション

排出量が見える化できたら、いよいよ削減に向けた具体的なアクションです。中小企業がすぐにでも取り組めて、かつコスト削減効果も期待できる身近な例をいくつかご紹介します。

  1. エネルギー効率の改善:

    • 照明のLED化: 消費電力が大幅に削減でき、交換費用も比較的安価になっています。照明の間引きや人感センサーの設置も有効です。
    • 空調の効率的な利用: 設定温度の見直し(夏は高め、冬は低め)、フィルター清掃の徹底、省エネ型空調機器への交換検討。
    • 古い機器の更新: 消費電力の大きい古い機器を、省エネ性能の高い最新機器に順次更新する。
    • エネルギー使用量の「見える化」: スマートメーターの導入や簡易的な計測機器の活用により、時間帯別の使用量などを把握し、無駄を見つける。
    • コスト削減効果: これらの取り組みは、電気料金や燃料費の削減に直接つながります。LED照明など、初期投資はかかっても数年で回収できるケースが多いです。
  2. 再生可能エネルギーの活用:

    • 再エネ電力への切り替え: 電力会社が提供する再生可能エネルギー由来の電力プランを選択します。特別な設備投資は不要で、契約変更のみで対応できます。コストは変動する可能性があるため、複数のプランを比較検討します。
    • 屋根置き太陽光発電: 自社建屋の屋根に太陽光パネルを設置し、自社で消費します。余剰電力は売電も可能です。初期費用はかかりますが、長期的に電気料金を大幅に削減でき、補助金制度なども活用できます。
    • コスト削減効果: 再エネ電力への切り替えは電気料金削減につながる可能性があります。自家消費型太陽光発電は、購入電力量を減らすことで大幅なコスト削減に貢献します。
  3. 廃棄物削減とリサイクル:

    • 分別徹底とリサイクル率向上: 資源ごみや産業廃棄物の分別を徹底し、リサイクルできるものは積極的にリサイクルします。
    • ペーパーレス化: 書類の印刷を減らし、電子化を進めます。
    • ごみの発生抑制: 過剰包装の削減、不要な資材の受け取り拒否など。
    • コスト削減効果: 廃棄物処理費用の削減につながります。特に産業廃棄物の処理費用は高額になることがあるため、削減効果が大きい場合があります。
  4. 移動・輸送の見直し:

    • 社用車の効率的な利用・EV化: エコドライブの推進、ルート最適化、将来的な電気自動車(EV)へのシフト検討。
    • オンライン会議・リモートワークの活用: 出張や移動に伴う燃料消費・交通費・宿泊費を削減します。
    • コスト削減効果: 燃料費、交通費、出張費の削減につながります。

これらの具体的なアクションは、専門知識がなくても、現場の担当者が日々の業務を見直す中で発見・提案できるものが多く含まれています。

若手・中堅社員が脱炭素推進で貢献できること

脱炭素への取り組みは、特定の部署や役員だけが進めるものではありません。特に若手・中堅社員は、新しい情報への感度が高く、柔軟な発想を持っています。以下の点で大いに貢献できます。

若手・中堅社員の「やってみよう」という意識と行動力が、脱炭素への第一歩を大きく前進させる原動力となります。経営層や上司に対して、具体的なデータ(エネルギー使用量、コストなど)や他社の事例を示しながら提案することで、協力を得やすくなるでしょう。

取り組みを進める上での課題と克服のヒント

中小企業が脱炭素に取り組む際には、いくつかの課題に直面することが予想されます。

これらの課題は、一足飛びに解決できるものではありません。重要なのは、完璧を目指すのではなく、「できることから、少しずつ」進めていく姿勢です。

まとめ

中小企業にとっての脱炭素は、避けて通れない流れとなりつつありますが、同時に事業の持続可能性を高め、新たな機会を捉えるための重要な取り組みでもあります。

まずは自社の温室効果ガス排出量を「見える化」することから始め、身近なエネルギー効率改善や廃棄物削減など、コスト削減にもつながる具体的なアクションを着実に実行していくことが重要です。

このプロセスにおいて、若手・中堅社員の積極的な情報収集、データ活用、現場改善の提案、そして社内への働きかけは非常に大きな力となります。脱炭素への一歩を踏み出すことは、自社の将来への投資であり、社会全体の持続可能性への貢献でもあります。ぜひ、今日からできることに目を向けてみてください。