日常業務の小さな改善から始める中小企業のESG：若手・中堅が実践できる具体的なステップ
日常業務の小さな改善から始める中小企業のESG：若手・中堅が実践できる具体的なステップ
ESG経営の重要性が認識されつつある中、中小企業において「何から始めたら良いのか」「限られたリソースで何ができるのか」といった疑問を持つ担当者は少なくありません。特に、現場をよく知る若手・中堅社員の皆様は、日々の業務の中に潜む非効率や「もったいない」に気づきやすく、それらを改善することがESG推進の有効な第一歩となり得ます。
この段階的なアプローチは、大掛かりな投資や体制変更を必要とせず、従業員の主体的な行動を促し、組織全体の意識改革にも繋がります。ここでは、日常業務の小さな改善を通じてESG経営に貢献するための具体的なステップと、若手・中堅社員が推進する上でのヒントをご紹介します。
なぜ日常業務の改善がESGに繋がるのか
ESGは環境（Environment）、社会（Social）、ガバナンス（Governance）の頭文字を取った概念であり、企業の持続的な成長のためにこれらの要素を経営に取り込むことを指します。日常業務の小さな改善は、直接的あるいは間接的にESGの各要素に貢献する可能性があります。
- 環境（E）への貢献: ペーパーレス化による紙資源の削減、節電や空調設定の見直しによるエネルギー消費量の削減、廃棄物の分別徹底やリサイクル推進などは、分かりやすい環境負荷低減の取り組みです。
- 社会（S）への貢献: 業務効率化による労働時間の適正化、整理整頓による安全で快適な職場環境づくり、部署間の情報共有促進によるコミュニケーション円滑化などは、従業員の働きがい向上や健康・安全に繋がります。
- ガバナンス（G）への貢献: 業務プロセスの標準化や情報管理の適正化は、組織運営の透明性や効率性を高め、コンプライアンス強化にも寄与します。
これらの改善活動は、特別なプロジェクトとしてではなく、日々の業務の中で見つけて実行できるものが多く含まれます。そのため、限られた予算や人員の中小企業でも比較的取り組みやすく、従業員一人ひとりが「自分ごと」としてESGに関わる意識を持つきっかけとなります。
具体的な「小さな改善」の例
日常業務には、様々な改善の機会が隠されています。ここでは、若手・中堅社員が取り組みやすい具体的な例をいくつかご紹介します。
環境（E）に関する改善例
- ペーパーレス化:
- 会議資料の印刷を減らし、タブレットやPCで共有する。
- 社内回覧を電子化する（チャットツールや共有ドライブの活用）。
- 両面印刷や集約印刷（複数ページを1枚に印刷）を徹底するよう社内で呼びかける。
- 不要な印刷物を削減するため、印刷前に内容をよく確認する習慣をつける。
- 省エネルギー:
- 使用していない電気機器の電源を切る（PCモニター、充電器など）。
- 会議室など無人の部屋の照明をこまめに消す。
- 室温設定を夏は高めに、冬は低めにする（例えば、環境省推奨の目安に準拠）。
- ブラインドやカーテンを適切に利用し、冷暖房効率を高める。
- 廃棄物削減・リサイクル:
- ゴミの分別ルールを再確認し、従業員に周知する。
- オフィス内で使用済みクリアファイルやプラスチック容器などをリサイクル回収する仕組みを検討する。
- 備品購入時に、詰め替え可能な製品や耐久性の高い製品を選ぶよう提案する。
- フードロス削減のため、社内イベントでの飲食物の量を適正に見積もる。
社会（S）に関する改善例
- 業務効率化:
- 定例会議の時間を短縮する工夫（アジェンダ事前共有、時間管理）。
- 簡単なタスクの自動化（定型メール作成、データ入力の一部自動化など）。
- 情報共有ツールの効果的な活用方法を提案する。
- 職場環境:
- 共有スペースの整理整頓ルールを明確にし、実践する。
- 危険箇所がないかチェックし、報告・改善を提案する。
- 休憩時間の利用を促す声かけをする。
- コミュニケーション:
- 部署間の情報共有不足を解消するため、共有フォルダやチャットチャンネルの活用を提案する。
- 社内アンケートを通じて、働きがいに関する従業員の意見を収集・集計する。
ガバナンス（G）に関する改善例
- 情報管理:
- ファイル命名規則を統一し、必要な情報が見つけやすいように整理する。
- パスワード管理やアクセス権限設定の基本的なルール順守を徹底する。
- プロセス改善:
- 煩雑な申請手続きを簡略化する提案を行う。
- 業務手順書を作成・更新し、誰でもスムーズに業務を進められるようにする。
これらの例はあくまで一部です。日々の業務を客観的に見つめ直し、「もっとこうしたら効率的になる」「これは無駄ではないか」といった視点を持つことが、改善の第一歩となります。
若手・中堅社員が推進するための実践ステップ
日常業務改善を通じたESG推進は、特定の担当者だけでなく、従業員一人ひとりの意識と行動が重要です。特に現場をよく知る若手・中堅社員が中心となって推進するための具体的なステップをご紹介します。
ステップ1：身近な「もったいない」「困った」を見つける
まずは、自身の業務や職場で日々感じている非効率、無駄、不便、リスクなどを書き出してみましょう。これは「こうなったらもっと良くなるのに」というポジティブな視点でも構いません。例えば、「この資料、毎回印刷する必要があるのかな？」「この業務、もっと簡単にできないかな？」「休憩スペースがごちゃごちゃしていて落ち着かないな」といった気づきです。
ステップ2：小さなチームで「まずはやってみる」
見つけた改善点の中から、自分自身や身近な数名の同僚と一緒に、特別な許可や大きな予算なしで始められるものを選びます。例えば、「1週間だけ、会議資料は印刷せずにPCで済ませてみよう」「使っていないPCモニターの電源をこまめに切る習慣をつけよう」など、規模の小さな試みから開始します。この段階では、完璧を目指す必要はありません。まずは行動を起こすことが重要です。
ステップ3：改善の効果を「見える化」する
試みが始まったら、その効果を意識して観察し、可能であれば定量的に記録します。例えば、ペーパーレス化なら「印刷枚数が〇枚減った」、節電なら「月末の電気使用量を確認してみよう」、効率化なら「この作業にかかる時間が〇分短縮された」などです。数値化が難しい場合は、「デスク周りがスッキリした」「探し物をする時間が減った」「気持ちよく働けるようになった」といった定性的な変化でも構いません。改善によるコスト削減効果（例：紙代、電気代）を計算できると、経営層への報告もしやすくなります。
ステップ4：成果を社内に「共有」する
小さな改善でも、効果が見られたら積極的に社内に共有します。社内報、朝礼、社内SNSなど、共有しやすいツールを活用しましょう。「〇〇の取り組みで、こんな効果がありました」と具体的に伝えることで、他の従業員の関心を引き、同様の取り組みを促すことができます。成功事例を共有することは、提案者のモチベーション向上にも繋がります。
ステップ5：周囲を巻き込み「仕組み化」を目指す
小さな成功事例が共有され、他の従業員も関心を持ち始めたら、次は活動の輪を広げ、仕組み化を目指します。例えば、ゴミの分別ルールの見直しと新しい分別箱の設置、印刷枚数削減目標の設定、特定の業務ツールの全社導入検討などです。この段階では、部署横断的な協力が必要になる場合もあります。必要に応じて、上司や経営層に相談し、協力を仰ぎましょう。小さな成功を積み重ねた実績は、大きな提案への説得力となります。
推進における課題と乗り越え方のヒント
日常業務改善を通じたESG推進には、いくつかの課題も伴います。
- 従業員の関心不足: ESGという言葉自体に馴染みがなかったり、自分事として捉えられなかったりする場合があります。「なぜこれをする必要があるのか」という目的や意義を、具体的なメリット（コスト削減、働きやすさ向上など）と合わせて分かりやすく伝えることが重要です。
- 「忙しくて時間がない」という反応: 大掛かりなことではなく、「日常業務の中で、いつものやり方を少し変えるだけ」という小さな一歩であることを強調します。改善によって将来的に時間が生まれる可能性も示唆します。
- 経営層の理解: 日常業務改善の取り組みが、単なるコスト削減だけでなく、ESGという企業の持続可能性に関わる重要な活動であること、従業員の意識向上や企業イメージ向上にも繋がることを伝えます。ステップ3で見える化した効果を具体的に示すことが説得力を高めます。
- 具体的な方法が分からない: 他社事例や、インターネットで検索できる具体的な改善方法（例: オフィスの節電方法、効率的な会議の進め方など）を参考にします。必要に応じて、簡単なオンライン研修動画などを活用することも検討できます。
まとめ
中小企業におけるESG経営は、必ずしも壮大な計画や多額の投資から始める必要はありません。日々の業務の中に潜む非効率や「もったいない」に気づき、それを小さな改善活動として実行していくことが、ESG推進の有効な第一歩となり得ます。
特に現場の状況をよく知る若手・中堅社員の皆様は、これらの小さな改善の担い手として非常に重要な役割を果たすことができます。自らの部署や業務から始め、その成果を共有し、周囲を巻き込んでいくプロセスは、ESGを組織文化として根付かせるための礎となります。
日常業務の小さな改善を通じて、コスト削減、効率向上、そして従業員の働きがい向上といった目に見える成果を積み重ねることは、ESG経営への自信と推進力を生み出します。ぜひ、今日から身近な「小さな改善」を見つけて、一歩を踏み出してみてください。