はじめてのESG経営

中小企業が知っておくべきESG評価・開示の基本:無理なく始める準備と若手の役割

Tags: ESG評価, 情報開示, サステナビリティ報告, 中小企業, 若手社員, 環境データ, 社会データ, ガバナンス

なぜ中小企業もESG評価・開示に関心を持つべきか

近年、企業価値を測る上で、財務情報だけでなく環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の観点、すなわちESGへの配慮が重要視されるようになっています。これは大企業だけでなく、サプライチェーンの構成員である中小企業にも無関心ではいられない流れです。

大企業や投資家からの情報開示要請が増加しているほか、消費者の意識変化、優秀な人材の確保、そして将来的なビジネス機会の創出といった観点からも、ESGへの取り組みとその対外的な説明(開示)は重要性を増しています。しかし、多くの中小企業では、「何から手をつければ良いのか」「評価や開示と言われても、どこまでやれば良いのか」といった疑問や、「リソースや専門知識が限られている」という課題を抱えていることでしょう。

この記事では、中小企業がESG評価や情報開示に無理なく取り組むための基本的な考え方と、特に若手・中堅社員がどのように貢献できるかに焦点を当てて解説します。

ESG評価と情報開示とは何か

「ESG評価」とは、企業のESGに関する取り組みやパフォーマンスを、外部の評価機関や投資家などが分析し、評価することです。この評価は、企業の持続可能性やリスク管理能力を示す指標の一つとなります。

「情報開示」とは、企業が自社のESGに関する情報を社外に対して公表することです。これには、環境負荷の低減策、労働環境の改善、コーポンスガバナンス体制などが含まれます。開示の方法としては、統合報告書、サステナビリティ報告書、企業のウェブサイトなどが挙げられます。

中小企業にとって、必ずしも大手企業のような詳細な報告書を作成する必要があるわけではありませんが、取引先からの要請に応じたり、自社の取り組みを分かりやすく伝えたりするために、基本的な情報開示の準備を進めることが今後ますます重要になります。

中小企業が直面しやすい課題

中小企業がESG評価や情報開示に取り組む際に直面しやすい主な課題は以下の通りです。

  1. リソースの制約: 人員、予算、時間のいずれにおいても、大企業に比べて制約が大きい場合が多く、専任の担当者を置くことが難しいといった状況があります。
  2. 専門知識の不足: ESGの概念自体が比較的新しく、評価基準や開示のフレームワークなど、専門的な知識を持つ人材が社内に少ない可能性があります。
  3. 目的意識の曖昧さ: なぜ自社がESG評価や開示に取り組む必要があるのか、その目的やメリットが社内で共有されていない場合があります。
  4. データの収集・管理体制: ESGに関するデータを継続的に収集し、適切に管理するための仕組みが整っていないことが多いです。特に、環境データ(エネルギー消費量、廃棄物量など)や社会データ(従業員の労働時間、研修時間など)の収集は、日々の業務とは別に手間がかかる作業です。
  5. 何をどこまで開示すべきか不明: 様々な評価基準や開示フレームワークが存在するため、自社の規模や状況に合わせて、どのレベルの情報をどこまで開示すれば良いのか判断が難しいと感じることがあります。

これらの課題に対し、いきなり完璧を目指すのではなく、自社の状況に合わせて段階的に取り組む姿勢が重要です。

無理なく始めるためのステップ1:情報収集と現状把握

ESG評価や情報開示の準備を始める最初のステップは、社内の情報収集と現状把握です。これは、特別な専門知識がなくても、若手・中堅社員が中心となって進めることができる重要なプロセスです。

社内の既存情報の洗い出し

まずは、既に社内に存在するESGに関連する情報を探してみましょう。例えば、

これらの情報は、担当部署(総務、経理、製造、品質管理など)に分散している可能性があります。社内を横断的に確認し、情報を集約することから始めます。

業界動向やサプライチェーンからの要請の確認

自社の業界でESGに関してどのような動きがあるのか、主要な取引先からどのような情報開示が求められているのかを確認します。業界団体がガイドラインを策定している場合もあります。

利用可能なフレームワークの確認(参考程度に)

CDP、GRI、SASBなど、様々なESG開示のフレームワークがありますが、これらは主に大企業向けです。中小企業向けの簡易的なガイダンスや、特定の業界に特化したものがないか、情報を集めてみることも参考になります。ただし、最初はこれらの複雑なフレームワークに縛られず、自社の言葉で説明できる準備を進めることが現実的です。

若手・中堅社員の役割

無理なく始めるためのステップ2:社内での共有と小さな目標設定

集めた情報を基に、社内でESGの重要性や現状を共有し、具体的な次のステップを検討します。

社内への分かりやすい説明

なぜESG評価や情報開示が必要なのか、集めた情報から何が見えてきたのかを、経営層や他の社員に分かりやすく説明する機会を設けます。専門用語を避け、自社のビジネスや社員にとってどのような意味があるのかを伝えることが重要です。

取り組むべきテーマの絞り込み

いきなり全てのESG要素について詳細な開示を目指すのは困難です。まずは、自社の事業と関連性が高いテーマや、既に何らかの取り組みを始めているテーマ、取引先から特に要請が多いテーマなどに絞り込みます。例えば、「CO2排出量の把握」「労働安全の強化」「情報セキュリティ体制の明確化」など、具体的な項目に焦点を当てます。

小さな目標設定

絞り込んだテーマについて、実現可能な小さな目標を設定します。例えば、「来期中に電気使用量を〇%削減する」「従業員満足度調査を初めて実施する」「コンプライアンス規程を確認し、社内周知を徹底する」などです。

若手・中堅社員の役割

無理なく始めるためのステップ3:外部情報の活用と専門家の検討

自社内の情報だけでは限界がある場合や、より専門的な知見が必要な場合は、外部のリソースを活用することも有効です。

公的支援や業界団体の活用

経済産業省や環境省などの省庁、地方自治体、商工会議所、業界団体などが、中小企業向けのESGに関する情報提供や支援策を実施している場合があります。これらの情報を収集し、活用を検討します。

オンラインツールや簡易的な報告書テンプレート

中小企業向けのESG関連のオンラインツールや、簡易的なサステナビリティ報告書のテンプレートなどが提供されていることもあります。これらを活用することで、効率的に情報整理や報告書の作成を進めることができます。

外部専門家への相談

公認会計士、中小企業診断士、環境コンサルタントなど、ESGに関する専門知識を持つ外部の専門家に相談することも一つの方法です。ただし、コストがかかるため、まずは無料相談などを活用し、自社にとって本当に必要な支援は何かを見極めることが大切です。例えば、データの収集方法についてのアドバイスや、報告書の構成に関する助言など、ピンポイントで依頼することを検討します。

若手・中堅社員の役割

実践のヒント:具体的な取り組みの切り口

まとめ:一歩ずつ、着実に

中小企業にとって、ESG評価や情報開示への対応は、決して容易なことではありません。しかし、この流れは今後さらに加速することが予想されます。完璧を目指すのではなく、まずは自社の現状を把握し、できることから一歩ずつ取り組み始めることが重要です。

特に、新しい情報にアクセスしやすく、変化への適応力を持つ若手・中堅社員は、情報収集、社内への働きかけ、具体的なアクションの推進において、大きな貢献ができます。経営層や先輩社員と連携しながら、自社の持続可能な成長のために、ESG評価・開示に向けた準備を共に進めていきましょう。